大阪地方裁判所 平成4年(ワ)2903号 判決 1992年10月13日
原告
山田富子
ほか三名
被告
井上勝己
主文
一 被告は、原告山田富子に対し金二六七万五四二五円、原告山田イクに対し金四四万円、原告新垣眞子、同山田俊雄に対し各金一四九万七七一二円及びこれらに対する平成三年一一月六日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用のうち、原告山田富子と被告との間に生じたものはこれを八分し、その五を同原告の負担とし、その余を被告の負担とし、原告山田イクと被告との間に生じたものはこれを一〇分し、その九を被告の負担とし、その余を同原告の負担とし、原告新垣眞子、同山田俊雄と被告との間に生じたものはこれを九分し、その五を同原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告らの請求
被告は、原告山田富子(以下「原告富子」という。)に対し金七一四万二五一円、原告新垣眞子(以下「原告眞子」という。)、同山田俊雄(以下「原告俊雄」という。)に対し各金三一六万四八七六円、原告山田イク(以下「原告イク」という。)に対し金四九万五〇〇〇円及びこれらに対する平成三年一一月六日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告が運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)と、山田俊次(以下「亡俊次」という。)が運転する普通貨物自動車(以下「原告車」という。)とが交差点で出会頭に衝突し、亡俊次が死亡した交通事故について、同人の妻子及び実母である原告らが被告に対して自賠法三条、民法七〇九条に基づき損害賠償を請求したものである。
一 争いのない事実等
1 交通事故の発生
日時 平成三年一一月六日午後三時〇分ころ
場所 大阪府守口市菊水通四丁目二五番地先交差点
態様 被告が被告車を運転して、一時停止の標識に従わず、時速約四〇キロメートルの速度で本件交差点に進入したため、交差道路から本件交差点に進入してきた亡俊次運転の原告車と出会頭に衝突し、亡俊次が急性硬膜下血腫、クモ膜下出血、脳室内出血、脳挫傷により、本件事故の翌日の同月七日に死亡した。
2 被告は、本件事故当時、被告車を自己のために運行の用に供していた(以上につき争いがない。)。
3 身分及び相続関係
亡俊次は、大正一〇年二月四日生まれの男子で、原告イクは亡俊次の実母、原告富子は亡俊次の妻であり、原告眞子、同俊雄はいずれも亡俊次の子であるが、亡俊次の右死亡により、原告富子は二分の一、原告眞子、同俊雄は各四分の一の割合で亡俊次の権利義務を承継した(原告眞子、同俊雄と亡俊次との身分関係及び原告富子、同眞子、同俊雄の各相続分につき甲三の1、3、4。その他の事実については争いがない)。
4 損害の填補
原告らは、本件事故に関し、自賠責保険から死亡保険金として二一〇二万円(内訳、葬儀費八〇万円、逸失利益九二二万円、慰謝料一一〇〇万円)を受領した(弁論の全趣旨)。
二 争点
1 損害額(給与に関する逸失利益、年金に関する逸失利益、死亡慰謝料、葬儀費用、原告らの慰謝料、弁護士費用)
2 過失相殺(原告らは、亡俊次に五パーセントの過失があつたと主張し、被告は、右過失割合を争う。)
第三争点に対する判断
一 証拠(甲一、二、七ないし九、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。
本件事故現場は、南北に伸びる車道部分の幅員が約四・七メートルの中央線のない道路(以下「南北道路」という。)と、東西に伸びる幅員が約五・二メートル(本件交差点以東の幅員は約六・八メートル)の中央線のない道路(以下「東西道路」という。)とが交差した信号機の設置されていない交差点の中央付近である。本件交差点の北西角付近には、書店があるため、本件交差点の北詰付近の南北道路と西詰付近の東西道路とは、互いに見通しが悪くなつている。また、南北道路の制限速度は、時速三〇キロメートルであり、本件事故現場付近は、市街地の平坦なアスフアルト舗装で、本件事故当時、路面は乾燥していた。本件事故当時、被告は、被告車を運転して南北道路を南進し、本件交差点の中心付近から約三〇メートル手前の地点で本件交差点を認めたことから、時速約四〇キロメートルに減速し、本件交差点を直進通過しようとした。そして、被告は、右減速開始地点から約二一・二メートル南進した本件交差点北詰付近で、本件交差点西詰付近の東西道路を原告が本件交差点に向かつて東進してくるのを進路右前方約一〇メートルの地点に発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、被告車の前部が原告車の左前側部付近と衝突した。右衝突の結果、原告車は横転し、原告車を運転していた亡俊次は、原告車から投げ出されて頭部を強打し、約一四時間後に死亡した。
二 責任
前記一の認定事実によれば、被告は、信号機による交通整理の行われていない見通しの悪い交差点を一時停止の標識に従わず、制限速度を上回る時速約四〇キロメートルもの速度で本件交差点を通過しようとして本件事故を発生させたものであるから、被告が、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負うことは明らかである。
三 損害
1 給与に関する逸失利益 八五四万五三九〇円(請求一一二五万八一〇八円)
亡俊次は、繊維製品の製造、販売を業とする寺井忠メリヤス株式会社に昭和三九年から本件事故当時まで勤務し、右会社から平成二年分の給与として二三七万八〇〇〇円を支給されていた。また、本件事故当時、亡俊次は健康であり、妻である原告富子、実母である原告イクと同居し、右両名の生活費は亡俊次の収入でまかなわれていた(甲四の1ないし3、原告富子本人)。
右認定事実によれば、亡俊次は、本件事故当時、年間二三七万八〇〇〇万円の収入を得る高度の蓋然性があつたと解される。また、亡俊次は、死亡当時七〇歳であり、平成二年簡易生命表によれば、七〇歳男子の平均余命が一二・六年であることからすると、本件事故時から六年間(新ホフマン係数五・一三三六)にわたつて就労することができたというべきであり、これに前記認定の家族関係を考慮すると、生活費として三〇パーセントを控除すべきである。そうすると、亡俊次の給与に関する逸失利益としては、八五四万五三九〇円(年収二三七万八〇〇〇円に前記新ホフマン係数と生活費控除率を適用。円未満切り捨て、以下同じ。)となる。
2 年金に関する逸失利益(請求二一四万三四七五円)
原告らは、亡俊次が本件事故により死亡しなければ、厚生年金保険法(以下、単に「法」という。)に基づいて生前に受給していた年額一三三万九五九六円の老齢厚生年金を本件事故後も一二年間にわたつて受給できたにもかかわらず、亡俊次が死亡したため、これに伴つて原告富子が年額一〇〇万七三〇〇円の遺族厚生年金を受給できるだけになつたから、その差額である年間三三万二二九六円の一二年分(新ホフマン係数九・二一五)について、生活費として三〇パーセントを控除した二一四万三四七五円を年金に関する逸失利益として請求する。
しかし、法は、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的として制定されたものであり(法一条)、また、老齢厚生年金は、受給権者によつて生計を維持している被扶養者の数に応じて給付額が加算され(法四四条)、老齢厚生年金の受給権は、受給権者が死亡すれば消滅し(法四五条)、その場合には、受給権者によつて生計を維持していた配偶者や子等に対して一定割合で減額された遺族厚生年金が支給され(法五八条、五九条、六〇条)、遺族厚生年金は、受給権者が死亡したり、婚姻した場合等には、受給権が消滅する(法六三条)と規定されていることからすると、老齢厚生年金は、生活保障的な性格が極めて強いのであるから、原告らの請求する右差額分を逸失利益と解するのは相当でない。そうすると、右差額分に関する原告らの請求は理由がない。
3 死亡慰謝料 一〇〇〇万円(請求同額)
前記三1(給与に関する逸失利益)で認定した亡俊次の身上関係、前記一で認定した本件事故の態様、その他一切の事情を考慮すれば、亡俊次の慰謝料としては一〇〇〇万円が相当である。
4 葬儀費用 一〇〇万円(請求二〇九万円)
原告富子は、亡俊次の葬儀費用として二〇九万三〇〇〇円を支払つた(甲六の1ないし3、原告富子本人)が、前記三1(給与に関する逸失利益)で認定した亡俊次の社会的地位、身上関係、その他一切の事情を考慮すれば、葬儀費用としては一〇〇万円が相当である。
5 原告らの慰謝料 原告富子四〇〇万円、同イク一〇〇万円、同眞子、同俊雄各二五〇万円(請求各同額)
前記三1(給与に関する逸失利益)で認定した亡俊次の家族関係、前記一で認定した本件事故の態様、その他一切の事情を考慮すれば、原告らの慰謝料としては、原告富子につき四〇〇万円、原告イクにつき一〇〇万円、原告眞子、同俊雄につき各二五〇万円が相当である。
6 弁護士費用 原告富子二四万円、同イク四万円、同眞子、同俊雄各一三万円(請求、原告富子六四万九〇〇〇円、同イク四万五〇〇〇円、同眞子、同俊雄各二八万七〇〇〇円)
原告らの各請求額、前記各認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては、原告富子が二四万円、原告イクが四万円、原告眞子、同俊雄が各一三万円が相当である。
四 過失相殺
前記一で認定した本件事故態様によれば、本件事故発生について被告には前記二(責任)で判示した重大な過失があるが、他方、亡俊次についても、本件事故現場が信号機による交通整理の行われていない見通しの悪い交差点であるので、交差道路から本件交差点に進入してくる他車の動きに充分注意して進行すべきであつたことからすると、本件事故発生について、亡俊次には一割、被告には九割の過失があると解される。そうすると、原告富子については一四二七万二六九五円(前記三1、3の各相続分二分の一と4、5の各全額)、原告イクについては一〇〇万円(前記三5)、原告眞子、同俊雄については各七一三万六三四七円(前記三1、3の各相続分四分の一と5の各全額)について過失相殺として一割を減額する(原告富子が一二八四万五四二五円、原告イクが九〇万円、原告眞子、同俊雄が各六四二万二七一二円)のが相当である。
五 以上によれば、原告らの本訴請求は、原告富子が二六七万五四二五円(前記四の一二八四万五四二五円から前記第二の一4の一部である一〇四一万円を控除し、前記三6の二四万円を加えたもの)、原告イクが四四万円(前記四の九〇万円から前記第二の一4の一部である五〇万円を控除し、前記三6の四万円を加えたもの)、原告眞子、同俊雄が各一四九万七七一二円(前記四の各六四二万二七一二円から前記第二の一4の一部である各五〇五万五〇〇〇円を控除し、前記三6の各一三万円を加えたもの)とこれらに対する本件交通事故発生の日である平成三年一一月六日からいずれも支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 安原清蔵)